2002年5月24日に、経団連会館、経団連ホールで開かれたアフィリエイトセミナーは、参加者数とその内容において、日本のアフィリエイト業界において過去にない、画期的なものであった。予定参加者数400人をはるかに越え、ホールの背後の壁面に補助イスを並べて最大限の人数を収容したようである。聞くところによると、申し込みは700人を越え、それをホールのキャパシティに合わせて整理したようである。
リンクシェアの対外向けのアフィリエイトセミナーは昨年来数回行われているが、質量共に業界を代表するセミナーに育ちつつあった。今回の経団連会館でのセミナーは、過去のセミナーを集大成するかたちで更に規模の大きなものであった。
当日のプログラムは、三井物産のメディア事業部部長、高橋修氏の主催者挨拶で始まったが、セミナーの主題と講師陣は次の通りである。
●「淘汰の時代を勝ち残るeコマース」
ーー成功事例に学ぶ顧客優位、ネットワーク時代のマーケティングーー
◆基調講演:情報の価値とビジネス
慶応義塾大学ビジネススクール教授 国領二郎氏
◆デルコンピュータのEビジネス戦略 ?顧客満足と収益向上のための秘訣とは?
デルコンピュータ(株)デル・ホーム・システムズ事業部
事業部長 水嶋玲似仁氏
◆Amazon.co.jp:そのビジネスモデルと日本での事業展開
アマゾンジャパン(株)
ブックスジェネラルマネージャー 西野伸一郎氏
◆ネットワーク時代のマーケティング ?アフィリエイトマーケティングの効果と意義?
三井物産(株)メディア事業部 Linkshareプロジェクトチーム
プロジェクトマネージャー 花崎茂晴氏
次に、各講師のスピーチの概要をお知らせして、参加できなかった方々への参考に供したい。
●基調講演:情報価値とビジネス 国領二郎氏
?本格化するネット化
・ADSL月間30万加入ペースの伸び → 2000円で高速常時接続。加入者は2002年中に1000万人に達し、2005年までには4000万人になるだろう。
・無線LAN接続 → 無線で常時高速接続
・次世代携帯電話 → 手のひらで画像通信
この二年間で先進国で一番高かった常時接続料金が一気に500分の1以下になり、世界最低水準になった。これらが、ビジネス分野にチャンネル構造改革を起こす。これは、「攻める企業にはチャンス。守る企業にとっては危機」をもたらす。
?ネットの効果:効率性と創造性
・偏在している情報をマッチングさせ、情報量を増やす →より効率的な供給システム
・情報処理能力を強化する →新しい需要の創造
?創造性とスピードのある経営管理システムの構築
・「囲い込み」型経営:経営資源の囲い込み
・オープン型経営:中核業務に資源を集中投入、外部資源の徹底利用
これらが、「従来の組織の垣根を越えたネットワーキング」をもたらす。
?日米の強みをネット時代で結合。それぞれに相違はあるが、ブロードバンドやモバイルで時空を越えたコラボレーションを実現する。
?ネットワークの創造性
・情報発信コストの低下。誰でも情報提供出来る。
・散在していた情報がネットワーク上で編集されて新たな価値を生む。
・単独の企業では果たし得ない爆発的なイノベーションの連鎖反応が起こる。
・個人が情報を発信し、参加型の社会が構築される。
?情報価値の収益化
・何らかの希少性に帰着させて収益を得る。
・希少性を増大させ収益を拡大する。
?新しいビジネスモデルの創造
・誰にどんな価値を提供するのか?
・どのように価値の生産と供給を行うか?
・レベニューとインセンティブの設計
→誰からどのようにお金を頂くか?
→誰にどのように報酬を与えるか?
?高付加価値産業の構築
提言:日本を世界のテストマーケティングセンターにしよう。
・感度の高く、厳しい顧客:日本の顧客が納得した商品は世界で通用する。そしてネットワークが大好きな日本の消費者。
・何でも作れてしまう製品開発・生産ネットワーク。製造業も情報化、ネットワーク化。
・顧客を価値の生産者として捉えることで日本の製造業も復活する(消費者とよぶのを止めよう)
?活力があって生活者にやさしいオープンアーキテクチャー社会を構築
?物質文明から精神文明へ
以上、国領教授のスピーチのトピックのみを抽出してその雰囲気だけでもお伝えしておく。そのトピックから想像して、久しぶりに教室に戻った感を抱かれるに違いない。約50分のスピーチは、長年、知的活性化が失われていた筆者の脳に、久しぶりで学問の世界から強烈なインプットがあった。この世界の端っこの方で、なんとか息をついている筆者のような人間にも、時代に参加しているという喜びと誇りを、そして希望を与えたくれた時間であった。
●デルコンピュータのEビジネス戦略 水嶋玲似仁氏
デルコンピュータは、創業18年にして、世界一の売上を誇るコンピュータメーカーに成長した企業である(2001年度の全世界における売上高約4兆円。社員数34,600人)。日本における本格的な販売は1993年1月から。ご承知の通り、中間業者を排除し、メーカーから直接顧客に届けるシステム、そしてすべて受注生産で在庫も持たないシステム、いわゆるデル・ビジネスモデルは、まさにインターネットの申し子のような存在である。
私事だが、デルは二重の意味に置いて、思い出がある。一つは、1996年頃、関係していた語学学校で、まだ当時、評価の完全に定まっていないデルのコンピュータを採用したこと。そして、個人的にもさんざん使いまくったこと。
もう一つは、アフィリエイトプログラムに首を突っ込んだ数年前、日本にはまったく資料がないのでアメリカの資料、特にリンクシェアUSAの資料を参考にさせてもらったが、このときに、既にリンクシェアの中でストアフロントをオープンしていたデルコンピュータを、その知名度を利用して、セミナーの材料にさせてもらったこと。
後で述べるアマゾンドットコムと並んで、アフィリエイトプログラムを述べるときにデルは絶対にはずせない企業であった。そのデルがやっと日本でも本格的にアフィリエイトプログラムに参入してきた。
水嶋氏の話によると、デルには幾つかの部門があるが、アフィリエイトプログラムを採用したのは、コンシューマー向けPC及び周辺機器を扱っている「デル・ホーム・システムズ事業部」である。リンクシェアに参加したのは、2002年1月25日からである。既にニュースになっているので多くの人が知っていることだが、デルは2002年3月にオンライン上での売上で日商1億円を突破した。この売上にアフィリエイトプログラムが寄与したことは関係者が認めるところで、インターネット上の売上の5%がアフィリエイトプログラムからのものであるという。参加後、僅か数ヶ月だが、目に見える寄与があったわけである。
今回のセミナーの中で、筆者に、特に印象に残ったのは、「収入以上のコスト増大を避けるために」、その手段の一つとしてアフィリエイトプログラムを利用しているというくだりである。成果報酬がアフィリエイトプログラム採用のメリットであり、多くのサイトを無料で代理店代わりに使うのが、このプログラムの特徴であるが、実際にプログラムを採用して成果を上げている企業から、直接その声を聞くと、成る程と、今更のように納得してしまうから不思議である。
▼水嶋氏は、「収入以上のコスト増大」の要因として、次をあげている。
?集客にかかるコスト
ーー数の増加に関係あるものとして、
・サイトの増加
・バナー広告の増加
・メール広告の増加
ーー質の向上に関係あるものとして、
・サイトの複雑化(例:顧客登録、商品登録)
・バナーの多様化(動画、音響効果)
・メールの多様化(HTMLメールなど)
?開発のためのコスト
ーーシステムの複雑化に関係あるものとして、
・サイトとデータベースを結びつける
・顧客セグメント、顧客管理の細分化
▼これらのコスト増大を避けるために、デルで実施しているアクション:
・コストシェアリング → Emailの共同実施など
・共同マーケティング → Eビジネスでの共同マーケティングの有効な手段
これらを実践に移してくれるのが、即ち、「アフィリエイトプログラム」である。
これの一例として次をあげておられた。
デルの顧客層は男性が多いが、女性の若い分野を開発する手段として、20代の女性のサイトに任せていくと行ったことである。
▼最後に、デルの今後のEマーケティングの戦略として、WEB上でのアライアンス(提携)を広大し、他業種、例えば、金融、自動車などとの提携を深め、結果としてマーケットシェアの拡大を計っていくと言っておられたが、そのための手段の一つとなるのがアフィリエイトプログラムである。
●Amazon.co.jp:そのビジネスモデルと日本での事業展開 西野伸一郎氏
ご承知の通り、アマゾンドットコムは、アフィリエイトプログラムのパイオニアである。アマゾンドットコムでは、”アソシエイト”プログラムと云っているが、このビジネスモデルをネット上で始めて本格的に実施したのがアマゾンドットコムである。
デルの項で私的な思い出を述べたが、アマゾンドットコムには、これまた思い出が深い。ネット上ではあまり書籍を買っていないので、いわゆる顧客としては落第だが、筆者がアフィリエイトプログラムを勉強するに当たって、世話になったのが、リンクシェアUSAとアマゾンドットコムである。
◆アフィリエイトプログラムとの出会い
1998年、あるインターネットセミナーに講師として招かれた時、参加者の一人から「アフィリエイトって何ですか」という質問を受け、それに的確な回答を与えられずなかったのが、この問題に首を突っ込む端緒となった。その頃、日本でアフィリエイトプログラムなど、一部のベンチャー志向の人たちを除いて、一般には知っている人は殆ど無く、勿論日本語の資料など殆ど無い。バリューコマースが営業を開始したのが確か、1999年の11月だから、まったくなじみがないビジネスであった。
少しでも、詳しく知ろうとするとアメリカの資料に頼らざるを得ないが、そのときに頼りにしたのがリンクシェアUSAと、アマゾンドットコムである。
今思えば恥ずかしいような話しだが、アフィリエイトプログラムを勉強しだしてしばらく経ったある日、リンクシェアUSAにメールを送り、「今後の日本の展開は、どうなっているのか」とちょっかいを出したのである。そして、帰ってきた返事が「三井物産と進展中なので、そちらとコンタクトして欲しい」というものであった。これが縁で、リンクシェアジャパンの立ち上げに超多忙中の花崎氏を訪ねることになったのである。
◆寄らば大樹の陰、アマゾンドットコムのサイトを翻訳転載。
さて、アマゾンドットコムとの縁であるが、当時、アフィリエイトプログラムに関する情報サイトを立ち上げようとしていた筆者にとって、アフィリエイトプログラムとは何かを説明するのに、どうやったら良いだろうかと頭を悩ましていた。何しろ、当時は、素人に1週間説明しても分からないと言われたプログラムである。
勿論、自分の持つ知識で説明できないことは無かったが、何か迫力がもうひとつである。そこで考えたのが、寄らば大樹の陰で、アマゾンドットコムのアフィリエイトプログラムに関するサイトを日本語に翻訳して載せることであった。何しろ、名前が名前だし、アマゾンドットコムがこれで成功したと言うことを載せれば迫力もある。そこで、またまたおっちょこちょい性が発揮されて、アマゾンドットコムにメールを出し、翻訳の許可とその掲載を求めたのである。
1週間くらい経ってからだろうか、返事がきた。翻訳して載せても良いというのである。これが大きく背中を押してくれることになって、チャンスメーカーネットの前身である、アフィリエイトプログラムズ・パートナーズドットコム(APpartners.com)が誕生したのである。
このサイトの柱は、アマゾンドットコムの翻訳転載と、アフィリエイトプログラムのニュースレターとしては、第一級の評価を得ている、 Allan Gardyne氏の ”ASSOCIATE PROGRAMS NEWSLETTER の翻訳許可を得て、そのディレクトリーと記事を載せることが出来たことであった。
このように、アマゾンドットコムは、筆者にとって、アフィリエイトプログラムを知るためのいろいろの意味でむち打ってくれる道場の場でもあった。その後、アマゾンドットコムは日本に上陸してきて、昨年、アソシエイトプログラムを日本サイトでも行うことになった。そのアソシエイトプログラムを実行しているチームにインタビューを行って、それを記事にしたのが、「広告主インタビュー、アソシエイトプログラムのパイオニアに聞く」である。裏話めいたものも知ることが出来るので、興味のある方は読んで頂きたい。
▼西野氏の話は、面白い話しで人々をまず引きつけた。アマゾンドットコムは、Customer-centric Companny (顧客中心主義の企業)を徹底した会社であること、そして、アマゾンカルチャーとでもいうべきものがあり、「よく働き、仕事自体を楽しみ、歴史作りに参加すること」をモットーにしていること。まさに、アマゾンの社員達は一つの大きな歴史作りに携わったに違いない。そして、アメリカの本社は社員の自由度が高く、社内で働く人間の数と、彼らが連れてくる犬の数とが同じくらいであるという。
▼アマゾンドットコムでは、”ブランド、顧客、機能”、この三つが企業の資源であり、すべてがこの資源を中心に動いていること。
▼日本サイトの立ち上げ時、2000年11月に、アメリカサイトから引き継いだアクティーブな顧客が既に193,000人おり、2002年4月にはこれが80万人を突破したそうである。ここにいうアクティーブナな顧客とは、過去「1年以内」にアマゾンジャパンのサイトから商品を買った顧客のことで、累計では無いという。
▼アマゾンがやっているアクセス数を増やす効果的なやりかたとは、
・口コミ効果
・オンラインマーケティング(ポータルやISPとの提携による新規顧客獲得)
・アソシエイトプログラム
以上の三つを効果的に機能させることによって、アクセス数の増大を計っているという。
そして、以上の三つの中で、新規顧客を得るのに、「口コミ効果」が最も有効で且つ金がかからないが、それに次ぐのがアソシエイトプログラムであるという。
気づいておられる方もいるだろうが、アマゾンドットコム及び、アマゾンジャパンのアソシエイトプログラムは、in-house、 即ち、自社でプログラムを運営しており、リンクシェアなど、外部のアフィリエイト・サービス・プロバイダーのシステムを使っていない。
これについては、アメリカでもいろいろと論議があるが、それぞれ企業の歴史や風土があり、いちがいにどちらが良いとはいえない。アメリカのようにin-house のソフトやプログラム提供の企業がひしめいているのと違って、日本では、正直なところ、自社運営は現実的ではない。アマゾンジャパンのアソシエイトプログラムの社内運営は、まさにその歴史と社内風土がさせたもので、in-house 以外に選択技がない。しかし、上記の筆者のインタビュー記事でもお分かりのように、アマゾンジャパンのアソシエイトプログラムの運営はシアトルで行われている。本社の運営と同じ屋根の下でやっているのである。
ネット上の伝説的な企業の話しであるだけに、また、この分野のパイオニアの話であるだけに楽しく興味深く勉強させてもらった40分間であった。
◆ネットワーク時代のマーケティング ?アフィリエイトマーケティングの効果と意義? 花崎茂晴氏
リンクシェアの花崎マネージャーの話しは、いつものことだが、歯切れが良くて非常に分かりやすい。筆者は花崎氏の話を聞くのはこれで確か三回目だと思うが、アフィリエイトプログラムを人に分かりやすく納得させるように話すという点では、商売柄というか、業界でも突出しているのではないだろうか。ご自身、非常に勉強されていることがよく分かる。
ただ、残念なのは、何時も他のゲストスピーカーが終わった後、或いは冒頭に挨拶代わりに話されるので、時間が十分でないことである。今回も、時間が押されたなかでの話しであったが、意図は十分に伝わったと思う。
▼今回のスピーチで特に強調されていたのが、”ネットバブル崩壊後”のEコマース市場環境の変化についての話しで、特にポイントになる点を4つ挙げられていたが、その中のひとつ、即ち、
・ブロードバンドの急速な普及による消費者側環境の変化=「常時接続」と「高速化」=「非目的」的な自由な動きと衝動買いの機会増大。
これが、今後のポイントになろうと強調されていた。そして、こうした市場環境の変化に対応できるネットマーケティングのトレンドは次のようになると言う:
→基本契約形態は場代から成果報酬型へ
→URLを記憶させるマスマーケティングから、サイト同士の提携によって集客を図るネットワーク型マーケティングへ
▼この点を強調されて、アフィリエイトプログラムの説明に入られたが、アフィリエイトプログラムと従来のネット広告の違いを次のように説明されていた。
・従来のネット広告との違いはーー?
?コスト。費用対効果では圧倒的な格差。
?提携プロセス。同じバナー型比較においても、成約率で10倍の格差。
?提携対象の範囲。すべてのサイトが潜在的な自社パートナーになりうる。
なぜ、そうなるかについて図と計算式を用いて詳細に解説されたが、ここでは述べる余裕がない。しかし、人を納得させるに足る内容であった。
●終わりに当たって
今回のセミナーは、参加者の数、スピーカーの質、その内容、どれをとっても現在の業界において、考えられる最高水準をいくものであった。これを組織できるのは、やはり三井物産をバックにしたリンクシェアのみがなしうることであろう。
この記事を書くに当たって、筆者の個人的なアフィリエイトプログラムとの関わり合いに触れてしまったが、それは取りも直さず、スピーカーに招かれた企業がアフィリエイトプログラムの発生と進展に歴史的な役割を演じているからに他ならない。
確かに、今回のリンクシェアの試みは経団連会館に多くの人々を集めて大成功だったが、即、アフィリエイトプログラム全体の底上げにつながらないのが日本の現状である。大手町の盛り上がりがネット上に連鎖反応を起こしてくれない。意味するところは、アフィリエイトプログラムに理解を示し興味を抱いている企業、広告主は多くなったが、対するアフィリエイトの数と質がなかなかついていかないのである。
リンクシェアはその独自のモデルの構築、即ち、ブランド力のある企業同士が提携し合うことによってそのパワーの結集を図っているが、これはリンクシェアだから出来ることであり、他ではなかなか真似は出来ない。
フォレスターリサーチは2005年におけるアフィリエイトの市場規模を全体の20%と予測しているが、これはあくまでもアメリカでの話しである。日本の市場がこれと同じ数字を挙げようとするならば、アフィリエイト数の増加と質の向上が第一義である。この分野に的を絞ったセミナーが盛況になってくれて始めて、日本のアフィリエイトプログラムの底上げが出来たということであろう。
このエントリーのトラックバックURL
http://www.affiliateportal.net/mt/mt-tb.cgi/237