3月19日、リンクシェアはプロジェクト開始2周年を記念してシンポジウムを開催した。シンポジウムはECサイトとアフィリエイト、併せて200名を越える参加者を得て、三井物産本社の地下1階の多目的ホールで行われた。
リンクシェアのシンポジウムに参加していつも感じるのは、その圧倒的な集客力のすごさである。リンクシェアでは、過去、年に2回の割合でシンポジウムを開催してきているが、一昨年、まだ、「アフィリエイトプログラム」とはなんぞやという、ほとんど未知の状態の時にも、大会議室を満席にしての開催であった。関係者の皆さんの努力は大変だったと思うが、2年経って、その努力が報いられた、と実感したのが今回のシンポジウムであった。
アフィリエイトプログラムのシステムを提供している、いわゆるアフィリエイト・サービス・プロバイダー(ASP)は、大手といわれるところが他にもあるが、セミナーやシンポジウムを開催してこれだけの参加者を得られるところは他にはないだろう。
これは、リンクシェアが三井物産という後ろ盾を持っているということとは別の問題で、参加しているECサイト、アフィリエイトの質の良さが原因の一つだと思う。アフィリエイトプログラムを今後のマーケティング戦略の重要なツールとして、企業に認識させる努力と、そのターゲットを、アフィリエイトを含めて、優良企業に重点を置いてきたリンクシェアの戦略がどんどん実りを大きくして来ている。目的意識が明確な良質な客層が多いことがこのような集まりを成功に導く一つの要因ではないだろか。
●シンポジウムは、プロジェクトマネージャーの花崎氏の2002年度の活動報告と今後の展開についての話から始まった。概要、次の通り。
・リンクシェアは2001年3月よりサービスを開始し、2003年3月現在、約110を超えるECサイト、2万に近い、アフィリエイトを持つまでに成長した。リンクシェアの特徴は、ECサイトの多くは、その分野では日本を代表するようなトップの企業群であり、アフィリエイトの30%は、法人、それもIT関連ではトップに属する企業である点である。
◆楽天と比較するその成長率と売上高への自信
・また、その業務内容も、急速な伸びを示しており、ASPの評価は単に、ECサイトやアフィリエイトの数の多さではなく、その活動によって得た、実際の数値であることをリンクシェアの実績は示している。そのネットワークを通しての毎月の売上高、それに応じて支払われるアフィリエイトへの報酬額は、率直に言って、筆者の予想を超えるものであった。
ショッピングモールで一人勝ちをしていると云われる楽天の月の売上が80億円と云われるが、リンクシェアでは、この数値を引き合いに出して比較しているところからも、その自信と、売上高の伸びが予想できるだろう。
このまま、順調に推移すれば、日本でも、近いうちに、年間億を超すコミッションを稼ぐアフィリエイトの誕生も夢ではない。ぜひそうなってもらいたいし、これはニュースになる。アフィリエイトプログラムのはずみを付けるに違いない。
(筆者注:リンクシェアのシンポジウムでいつも感心し驚くのは、その率直な情報開示である。今回も細かい数値が数多く発表されたが、ここでは、筆者の判断で公表を控えておく。上記の文章から判断して頂きたい)
◆今後の展開について
新機能・サービスによる成果アップ
・リンクシェア独自の最新機能、ダイナミックリンク
1.鮮度の高い商材、情報を「push」に配信
2.ECサイトの販売ノウハウをそのままアフィリエイト上で活かすことが可能
3.在庫切れ、リンク切れなどの機会損失防止
4.アフィリエイトの手間が大幅軽減
・広告の「最終効果測定ツール」。Media Trackerサービスとは・・・
--大手ポータルへのネット広告でも、通常トレースが難しいが、最終成果(購買、登録)がすべてトラッキングできる広告効果測定ツール
--「商品別購買データ」や「バナー単位での購買結果比較」といった情報がリアルタイムで把握でき、ネット広告に関してもROI(費用対効果)を媒体ごとに正確に把握できる。
◆リンクシェアの将来展開
次のような外的要因を挙げ、その結果、アフィリエイトプログラムの成長を予測している。また、その予測は、現在までの数値を元にしているので、非常に説得力があった。先に述べたように、リンクシェアは競争対象として、同業のASPでなく、日本でナンバーワンのショッピングモールを視野に入れているところは、これからのリンクシェアの意気込みを感じさせた。
以下、リンクシェアの資料からの引用である。
鍵となる外的要因:
・ブロードバンドの普及
=最大の恩恵はアフィリエイトプログラム
消費者の広がりxリンクスピードアップx衝動買い機会広大
・Paid Search, SEOマーケティングの浸透
・ネットマーケティングにおける「成果報酬」的トレンドのさらなる高まり
ネットワーク対モール
ショッピングモールの場合、成長効果に違いが出る。
・店舗数の増加=各店舗の希薄化
アフィリエイトプログラムの場合。
・参加企業の増加=チャネルの増加=集客力に直結
・リレーションシップからネットワークプラットフォームへ
・ECサイト、アフィリエイトを問わず、人と商材/情報が自由に行き交うネットワーク型プラットフォームへ
将来事業展開について
・BtoCマーケットの20%がアフィリエイトプログラムになる
・BtoBマーケット
・モバイル
・外国市場(中国等)
・新技術が生む市場(双方向TV通販、動画、放送連動)
そして、最後に、アフィリエイトのモチベーションを高めるためにEPC(Earning per Click)からみた場合、アフィリエイトの期待EPCと、実際のEPCとの間にまだかなりの開きがある。これを縮める努力を、ECサイトに協力をお願いしたい、として、活動報告を終えた。
(筆者注:話しがかなり専門的になっているが、分かりやすく云うと、ECサイトはコミッションをもうちょっと上げて貰えないか、という話しではなかろうか)
● 続いて、アフィリエイトマネージャーの梅村敦子氏が、「米国業界におけるアフィリエイトマーケティングのトレンドについて」話しをされた。
効果の高い3つのマーケティング手法として、次の3つを挙げている。
・アフィリエイトマーケティング
・サーチエンジンマーケティング
・既存客へのメールマーケティング
そして、「アフィリエイトマーケティングとサーチエンジンマーケティングの相乗効果を活かした"新しい"マーケティング手法が生まれている」と、アメリカの事例を紹介している。
ここで、個人的な感想を述べさせて頂くと、実は、この「アフィリエイトマーケティングとサーチエンジンマーケティングの相乗効果」の問題は、筆者が今後取り上げていきたい主題の一つとして、資料を集めていたところだったので、非常に参考になるお話だった。
筆者が、アフィリエイトプログラムとサーチエンジンマーケティングの関連づけに興味を持ったのは、ECサイトが、多くの優良なアフィリエイトサイトと提携関係を持つと、それだけで、Google などに上位表示される可能性が非常に高くなる。
且つ、それまで殆ど未知の商品であっても、極端なことを云えば、アフィリエイトの数だけサーチエンジンに複数表示されるようになるので、ブランディング効果が一段と上がってくる。
これらの事実を前提にして、更に、キーワードの選択に、より意を用いて、意識的にアクションを起こして、サーチエンジンにおける上位表示を目指す。当然、ECサイトのメリットが生まれるが、これを、ECサイトのメリットだけに留めず、アフィリエイトが多くのコミッションを得ることが出来るスキーム(仕組み、枠組み)を生み出そうと云うものである。
タネの一部を明かすと、筆者の考えているスキームはミニサイトの連携によるシステム化であるが、梅村氏の話は、サーチエンジンマーケティングの中の、Paid Listing に焦点をあてて、「米国業界において、ECサイトが Paid Listing に関わるCPCリスクと管理作業を、アフィリエイトにCPAにてアウトソーシングするという新しいアプローチが広がっている」と云うものであった。
(注1: サーチエンジンマーケティングは、普通次の3つに分類される。
・Directory Inclusion → ディレクトリーへの登録対策
・Search Engine Optimization (SEO) → ロボット型の検索エンジン最適化対策 ・Paid Listing → 検索広告枠内のリスティング対策
注2: CPC=Cost per Click クリックベースの料金体系をいう。
CPA=Cost per Action 成果ベースの料金体系をいう。商品購入、サービス申し込み、会員登録など。)
◆梅村氏は、具体的な「サーチエンジンマーケティング」アフィリエイトスキームの導入モデルとして、次のように紹介している。
ステップ1:
プロ級のSEM(Search Engine Marketing)アフィリエイトを特定し、SEMパートナーとして任命する。
ステップ2:
自社のブランドポリシーが遵守されるよう、SEMパートナーと緊密な関係を構築する。
ステップ3:
SEMパートナーの実績を分析し、成果に応じたインセンティーブプランを推進する。
◆そして、最後に、アメリカの業界における代表的なサーチエンジンマーケティング・アフィリエイト層として、次を挙げている。
・ ショッピングプロモーション情報サイト
・ ショッピングエンジンサイト(価格比較サイト、消費者評価情報サイトなど)
・ サーチエンジンマーケティング専門の代理店
◆結論として
・ サーチエンジンマーケティングを活用する"新しい"タイプのアフィリエイトサイトの育成ポテンシャルは大きい。
・ 現在のアフィリエイトプログラムを、効果的なサーチエンジンマーケティングの管理インフラとして活用することが可能。
●シンポジウムの最後はパネルディスカッションであった。
パネルディスカッションは、リンクシェア・シンポジウムの恒例のイベントになった感があるが、今回は時間も1時間以上とり(それでも、短く感じた)、実績を挙げているECサイトとアフィリエイトのそれぞれの立場からの、アフィリエイトプログラムへの取り組みの紹介と「言い分」を披露する場であった。
コミッションの問題が取り上げられたが、これは、冒頭の花崎氏の締めくくりの言葉にもあるが、アフィリエイトプログラムにおける一番大きな問題の一つである。日本のECサイトのコミッションは、アメリカに比較して相対的に低いようである。最近はECサイトの意識も高まり、改善しつつあるようだが、著名企業においては、まだ、改善の余地があるのではないだろうか? 著名企業は、アフィリエイトプログラムを、多くのマーケティング手法の一つとして、One of them として使っているので、アフィリエイトに対する配慮が足りないようである。
最近はアフィリエイトの意識も高まってきて、ブランドだけではお付き合いしかねるという傾向もある。パネルディスカッションでは、紳士的な応対であったが、今後とも、大いに論議し、相互の利益を追求して貰いたい。これが、アフィリエイトマーケティングを更なる段階にステップアップしていくことになる。
第二部、懇親会
恒例の懇親会では、マーチャント、アフィリエイト、それぞれの業績に応じた優秀サイトの表彰があった。
この懇親会は、ECサイトとアフィリエイトの直接の話し合いの場になるので、率直なコミュニケーションを取り合うという意味においては、シンポジウムと匹敵するくらい重要な意味を持つ。ここでの名刺交換が次のステップにつながるからである。
時間も午後3時半から5時50分までのシンポジウム、そして、6時から8時までの懇親会と、時間も充分にとっての集まりであった。
いつものことであるが、参加者は、かなりの充足感を持って、会場を後にしたに違いない。
(終わりに: 筆者が、リンクシェアジャパンのオフィスを初めて訪れたのは、2000年の春頃で、まだ、本郷のこじんまりしたオフィスで、花崎氏を中心にしたスタッフが立ち上げの準備をしていた頃だった。正式オープンの1年以上前のことである。
筆者は、その二三年前あたりからアフィリエイトプログラムに興味を抱いていたが、当時、バリューコマースやA8ネットもオープンしておらず、日本にはアフィリエイトプログラムに関する資料が何もなかった。 勉強しようと思えば、アメリカの資料にたよる以外になかった。特に、リンクシェアUSAは、筆者自身アフィリエイトになり、サイトをすべてコピーして、アフィリエイトプログラムを勉強させてもらった。
そんな流れの中で、リンクシェアUSAから、三井物産がアフィリエイトプログラムを日本で立ち上げることを知らされたのであった。日本を代表する大商社がアフィリエイトプログラムに目を付けていることを知り、自分の関心もまんざら的を外れたものではないな、と自負の念を持ったものである。
歳月は早い。そのリンクシェアジャパンが2周年記念を迎えたのである。数字の面でも、急成長を遂げている模様で、恐らく、日本を代表するASPになるのはそう遠いことではないと思う。特に、アフィリエイトプログラムがBtoB の分野で積極的に使われ出すと、商社というバックは鬼に金棒である。このあたりのビジネスモデルをどのように構築していくか、当分、目が離せない。
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